ファイトニュートリエント ゲノムと染色体

●植物の成分

地球上に存在する植物は推計20万種以上(はるかに多い可能性があります)といわれ、その生存能力には驚くべきものがあります。植物は動物と違い自分の意思でからだの各部を動かせず、より安全な環境下へ動くこともできません。芽を出したその場で成長し子孫を残していくためには、さまざまな環境の変化、紫外線、乾燥、天敵、害虫などから身を守る必要があります。そのため植物は生き残るための成分を生み出し進化してきました。そうして植物が作り出してきた成分の種類は最低でも100万はあるという説もあり、その数についての定説は今のところないようです。植物が生き残りをかけて生み出してきた成分の中で、人間に恩恵があるものはファイトニュートリエント(ファイトケミカル)と呼ばれるようになりました。
私たちは野菜や果物、植物の加工品、植物の成分が入った薬剤や化粧品、日用品など、さまざまな物からファイトニュートリエントの恩恵を得ています。例えば、私たちが現在使用している薬剤の7割以上は植物由来、もしくは植物にヒントを得ているものということです。

●植物のゲノム

ゲノムは「遺伝子情報の総体」を意味する生物の設計図のようなもので、植物がもつ生存能力を読み解く方法の一つです。ゲノムは文字に相当する塩基で表され、ヒトのゲノムはおよそ30億個の塩基から成り立ち、書籍に例えると30億文字の情報が書き込まれているということです。1990年代以降さまざまな植物のゲノム解析が進められています。小麦のゲノムは約170億塩基でヒトのゲノムより桁違いに多い一方、イネは約3.9億塩基とその数はさまざまです。
ゲノムに書き込まれた膨大な数の「文字」のうち、「文章」として読める部分は「遺伝子」として理解されます。例えばある「文章」は「油脂を代謝することに関与する遺伝子」として読み取られ、その個体が持つ能力として理解されます。しかし、「文章」として読み取ることができない部分もあり、ゲノムには働きがわかっている部分とそうでない部分があります。植物のゲノム研究はまだ黎明期で解明されていない部分も多いようですが、これまでの解析で注目されているのは、植物のゲノムは動物のゲノムに比べて概して読み取れる「文章」が長くて多く、役割が不明の「読み取れない部分」が比較的少ないということです。植物のゲノムにおけるこの特徴は、周囲の環境がどのように変化しても対応できるように身につけた能力であると考えられています。

●植物の染色体

植物は遺伝子を格納している染色体のセット数を表す「倍数性」においても、際立った特徴があるようです。人間を含む多くの動物は、父親と母親の双方から引き継がれた染色体を一対ずつ持つ「2倍体」です。父母両方の染色体を持っていることは生存していく上で有利な仕組みということです。例えば父親から受け継いだ遺伝子に特定の病気にかかりやすい性質があっても、もう一方の母親から受け継いだ遺伝子に問題がなければ、これを補って発病が回避できるといった可能性が考えられます。しかし、そのときは発症せずに済んだとしても、孫の代になって結局その病気にかかってしまうというケースもあります。遺伝的にはその病気にかかりやすい因子を持ち続けているので、他遺伝子によってもカバーできないことがあるためです。
一方、植物は6倍体や8倍体である染色体が珍しくなく、たとえばコムギやサツマイモは6倍体、イチゴは8倍体と、多くの染色体を持つことで遺伝子が一つの細胞の中に多く収まっています。そのおかげで一つの遺伝子が環境に適応できず、うまく働かなかったとしても他遺伝子のどれかの働きにより危機を回避できる可能性が高くなるそうです。

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参考:「ハーブのすべてがわかる事典」株式会社ナツメ社、 「ハーブ便利帳」株式会社NHK出版、「暮らしの図鑑 ハーブの癒し」株式会社翔泳社、「予防医学の名医が教える すごい野菜の話」株式会社飛鳥新社、「カロテノイド」厚生労働省e-ヘルスネット、「ファイトケミカルとは」公益財団法人長寿科学振興財団 健康長寿ネット

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