足寿命をのばす

歩行できる運動能力「足寿命」をのばすことが自立した生活の礎であるといわれています。

●歩行の維持は人生の維持

足には歩くときは体重の2〜3倍、走るときには5倍もの負担がかかるといわれ、日常的に革靴やヒールの靴で長時間締め付けられていることもあり、足の寿命は他のからだの部位に比べると短く約50年と語る専門医もいます。また、足の衰えは血流の停滞や心血管機能への負担、便秘、筋力低下、骨密度低下など、からだ全体の衰えに影響することが多いようです。また、足のどこかに痛みがでるとそれをかばうために膝や股関節、腰に負担や痛みが生じるなど、全身に影響を及ぼす傾向があります。そのため足の問題は早期に見つけ対策をとることが望まれます。
自立した生活ができなくなるプロセスは歩行困難から始まり、排泄の困難、そして食事の困難の順番でやってきて、死へつながっていくといわれています。まずは足寿命を落とさないことが自立した生活の礎です。また、足の機能が低下して思うように歩行できなくなることで、怒りや不安が生じたり、社交活動への参加意欲が低下するなど、心理面、社会面、経済面へも影響することから「歩行の維持は人生の維持」と表現されることもあるのです。
北米を中心に発展し100年以上の歴史がある「足病医学(ポダイアトリー)」という医療分野があります。足を専門的に診るドクターを「足病医(ポダイアトリスト)」といい、全米の足病医は歯科医の人数とほぼ同数の約1万5,000人、アメリカでは足病医は歯科医師と同じように日常的な存在です。特に高齢者のQOL(生活の質)は足の健康と歩行の状態によるとされ、足病医が診る機会が多いようです。

●加齢による足の変化

・筋力と関節の変化

50歳以降で骨格筋量の減少や筋力の機能低下がおこり始め、50歳〜70歳までの20年間で骨格筋量が10%程度、筋力が15%程度減少すると考えられています。筋力の衰えは四肢の末梢側から始まり体幹側に及んでいくと考えられ、まず衰えるのは足の筋肉ともいわれます。さらに、関節軟骨の水分が失われ硬くなることで下肢の可動域は15%〜30%低下するといわれます。このように足は50歳を境に筋肉、骨の両方で徐々に衰えていき、その結果歩く時の安定性が失われ転倒のリスクが高くなります。

・足底と足裏の変化

歩行時のクッションとなる足底の脂肪は加齢とともに硬くなっていき、骨への圧力が増加します。足の皮膚は老化により薄く硬くなりひび割れや痛みが起きやすく、バイ菌も侵入しやすくなります。これらさまざまな変化により歩行時にかかる足底への圧力は、若年時に比べて10%程度高くなるといわれ、これがタコのできる原因となり、またタコで足底が分厚くなることでバランスが崩れて痛みも増すようです。他にも外反母趾(親指の先が人差し指のほうに「く」の字に曲がった状態)、強剛母趾(親指の第一関節が硬くなり動かない状態)、指先の変形や扁平足などの骨関節系や骨のトラブル、痛風などによる関節炎、アキレス腱や筋肉のトラブル、しびれなど、数々の症状が歩行を難しくしていきます。

・歩行の変化

歩行速度は老化進行の指標でもあります。足の筋力が衰えると歩幅(右足と左足の幅)が短くなり75歳くらいから歩行速度の低下が始まるようです。80歳くらいになるとさらに筋力の低下が進み、膝を曲げながら前傾姿勢でバランスをとり、一歩ずつの距離を短くしてからだを安定させるような歩き方になっていきます。

足の筋力と関節の変化、足底と足裏の変化、歩行姿勢の変化。これらの要因が重なることで歩くことに支障が起こり、歩くために必要な筋肉を十分に動かす機会が減り、より歩かなくなることでさらに衰えが加速するようです。

 参考:「“歩く力”を落とさない!新しい「足」のトリセツ」株式会社日経BP、「死ぬまで歩きたい!人生100年時代と足病医学」株式会社 大和書房、「足の専門医が教える 100歳までスタスタ歩ける足のつくり方」株式会社アスコム

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