30回以上噛んで老化予防
「全身の衰えは口から始まる」と医師が表現することもあるようです。
●口腔機能の老化予防
「歯の残存本数と寿命は比例する」「65歳時点で快適に食事をとれている人はそうでない人と比べ健康寿命が約3年長い」という調査結果があります。このように「好きなものを、何でも無理なく噛んで食べられる」「しっかり唾液が分泌され無理なく飲み込める」ことは生きるうえで重要といえるでしょう。しかし、これらは噛む力を維持できていないとなかなか難しいことのようです。日本歯科医師会が中心となって行われている「8020(ハチマルニイマル)運動」があります。自分の歯が20本以上残っていれば、食生活にほぼ満足できることから、80歳になっても自分の歯を20本以上保とうという趣旨です。しかし、80歳になって20本以上自分の歯が残っていても、歯周病、虫歯があると無理なく噛むことは難しくなります。噛むためには歯がよい状態にあることだけでなく口腔機能全体が大切です。唇や舌、頬の筋肉などの機能も必要で、年齢を重ねてもこれらの機能を保つためには、歯科定期検診で歯石をとる、デンタルフロスを使うなどの継続的な歯周病、虫歯予防と共に、日頃の食事でひと口30回を目安によく噛むことがよいとされています。
●全身の老化予防
噛んだり、飲み込んだり、話したりするための口腔機能が衰えることを「オーラルフレイル」といいます。食べられるものが制限され、栄養不足となることで生じるからだ全体への影響、さらには精神的、社会的な面にも影響が及ぶとされています。
噛むことは脳の血流をよくし、創造性や意欲、理性などを司る脳の「前頭前野」と記憶力と関係する「海馬」という部分を活性化することが明らかなようです。人の脳は前頭前野を含む前頭葉から老化していくといわれ、加齢に伴い怒りっぽくなる、消極的になるなどは、その現れともされます。噛むことは認知症予防になるという研究結果もあり、噛むことと脳の老化は密接に関係しているようです。
また、噛む能力の低下は、嚥下(えんげ)機能低下の大きな要因の一つにあげられます。さらに噛む力の低下で食べられるものが限られ栄養の摂取が低下すると、全身の筋力が弱っていく心配があります。その結果、運動や外出の機会が減り、足腰の筋肉の衰えが進み、転倒や骨折などで老化が急激に進むことも。さらに、噛む力があるということは、話す力もあるともいえ、話す力が低下すると社会参加に消極的になり、やはり老化を進める心配があります。30回以上よく噛むことは総合的な老化対策といえるでしょう。
参考:「「噛む力」が病気の9割を遠ざける」株式会社宝島社、「一生太らない体をつくる「噛むだけ」ダイエット」東京書店株式会社、「噛むだけでやせる!超健康になる!」株式会社マキノ出版